あたらしいことをはじめるとき、記念に「もの」を買う。BORN FREE WORKSをはじめたときは、『ウッドストックの小さいって大きないのち』という本を買った。ギャラリーに置いておいて、大切なものはなにかをいつでも確認できるように。
来月からの<BRANDIN>で、再びあたらしいことをはじめるにあたり、ふと、「あの空間にランプがあるとかわいいな」とおもった。オーダーを依頼したのは、サーフボードの修理・製造を生業にしている<BIRDS CREATION>の小玉譲二(こだま・じょうじ)くん。
サーフボードを作る工程で出るグラスファイバーの廃材から生まれたランプがあるのだが、その不思議な形と色合いは他で見たことがなく魅惑的で、以前から「いいな、素敵だな」と眺めていた。ランプの打ち合わせを兼ねて昨日、ジョージくんが家に来てくれた。言っていた時間よりもずいぶんあとにひょっこりやってくる感じ、さっきまで海で潜っていたらしく、海で拾ったというものを手にして玄関に立つ姿は小学生のようだった。その全部が、ジョージくんだった。以前、彼は隣の部屋に住んでいたことがあるので、窓の外に広がる風景をおおいに懐かしんだり、感嘆していた。
七里ヶ浜で軽いランチをして、茅ヶ崎の<BRANDIN>まで車を走らせて、場所をみてもらった。はじめて<BRANDIN>を訪れたジョージくんは、空間と店主の宮治夫妻のお人柄に触れて「すごくいいね」と、言ってくれた。まっすぐな大きな目で、ゆっくり頷くしぐさ。
「ランプのサイズや色は任せるから、あとはよろしくおねがいします」と伝えると、「みもちゃんのために頑張る」と言った。「そのセリフ、10年前にも聞いたね!」と、思わず笑った。<BORN FREE WORKS>のこけら落としのときも、企画展でジョージくんにお願いしたのだ。あの時も、真っ先に頭に浮かんだ。「なんか作って!二ヶ月後に展示をしたいんだよ」と。無謀なことを言った自分を振り返って、「あのときは本当にごめんね」と、思い出して大笑い。
船出のときは、緊張もするし、不安もある。
船を出せるのか、走れるのか、港に戻ってこれるのか、いろんな種類の不安がある。そんな時、ジョージくんの顔が浮かぶ。「常識では」とか「普通はこう」、みたいなことからはだいぶ遠いところにいる人だけれど、本当に困ったとき、無意識に頼りにしているのだろう。決して見せないけれど、たくさんの苦悩や苦労や痛みを重ねた分だけきっと、その全てを光にして放っている。
店内はほどほどに混んでいた。「こんなにみんながくつろいでいるお店、すごいね」とジョージくんも言っていたけど、私もいつも、本当にそう思う。だからこそ、ここでやらせてほしいと思ったわけで、「間違いない」と思えたことが嬉しかった。温かいチャイを飲んで、くだらない話にゲラゲラと笑って、ゆるんで、眠くなって。
店を後にして134号線を走り、家まで送ってもらった。開け放った窓、ハンドルを握るジョージくんのほうから、助手席に座るわたしの窓のほうへと、潮風が通り抜けていく。Tシャツ、顔、髪、気まぐれにかき乱して、駆け抜ける。海面に反射する太陽の光を「ダイヤモンドみたい」と彼は言った。ランプはいつできるのか、どんなものができるのか。そのぜんぶがわたしの宝箱の中に入ったような、午後のこと。