土曜日の午後、「ミュージシャンをつれてきました」と、<BRANDIN>のひろみさんが若者を二人引き連れてきてくれた。それだけ言い残して、ひろみさんはお店に戻った。
連れてこられた彼らは、タイパンツよりも部屋の本棚に置いてあったボブ・ディランの本に夢中そうだったので、しばらくそっとしておいた後、話しかけた。聞けばふたりは、<BRANDIN>からすぐの、近所の高校の同級生同士だそう。一人は現在イギリスのウェーズル音楽大学でドラムを学んでいるとのこと。今は夏休みで帰国中なのだそう。もうひとりの男の子は、日本の音楽専門学校に在籍中だったが、推薦?にパスをして、来月からアメリカのバークリー音楽大学に編入し、ベースの勉強をするそうそうだ。それは、どうやらとても難関なことらしい。ウェールズの彼いわく、ものすごいことのようだった。よくわからないが、とにかく目下バンドマンに憧れのあるわたしにとっては、楽器の弾ける若者に羨望の眼差しで食いついてしまった。とっても感じのいい若者で、どうしたらこういうメンズが育つのか、娘しかいないわたしにとっては、永遠の謎。
途中でアイルランド人だったかな、常連の男性もやってきて、ひろみさんが紹介をしてくれた。ウェールズにいる彼は、エッジの効いたイギリス英語で会話をしていた。あとで「さすがイギリス英語だね〜。きちっとしているね!」というと、わざとフランクな英語を喋って「こんな感じのカリフォルニア英語も喋れなくはないんですよ〜」といって笑ってみせた。かわいい・・・。かわいいの極みであります。
<BRANDIN>では老若男女、様々なお客様がいらして、音を楽しんでいる。文化ってこういうことなのか、と本当に目の当たりにする。文化系男子の父から生まれたわたしは、「文化が」とか「カルチャーがね」とか口にする男性、音楽を語るときに「どんなジャンルを聴くの?」とかいってくるすべての男性が、正直ものすごく苦手だった。若かったし、偏見もあった。大人になって、ジャズが好きだった父の話をすると、「リビングで流れていたの?」と聴かれるが、そうではない。父は二階に、レコード部屋を持っていたのだ。その部屋はバーカウンターのようにお酒も飲めて、一人がけのレザーのソファが、確か二、三脚あった。うそでしょ、っていうサイズのバカデカいスピーカーを備え、壁紙もその部屋だけは、多分まちがいなく海外の、めちゃくちゃオシャレなやつにしていた。実家は日本家屋だったのに。その部屋は、こどもながらに近づきたくない怖い部屋だった。レコードの音はうるさいし、走ると怒られる。スピーカーの前で、まだあかちゃんのわたしが写っている写真が一枚あるのだが、今にも泣き出しそうな、すごく不機嫌そうな顔をしている。母は、その写真がなぜか大好きで「パパにそっくり〜かわいい〜」と愛でる。
父はいっつも自分のことばっかりだった。レコードもそう、車もそう。お洋服、靴、バッグ、香水、自分がいちばんで、自分がだいすきで、自分にめちゃくちゃお金を注いでいた。一度だってレコードの針の落とし方を教えてくれることもなく、ジャズも、自分だけが楽しそうにスイングして聴いていた。もっと家族を構ってほしい。レコードなんてバッカみたい! そうおもっていたのにな。父が元気だったら、この場所での活動を、どんなにか喜んだだろう。<BRANDIN>にいると、父のことを何度も、何回も、どうしても、おもう。この気持ちを音に乗せて、言葉にして、命懸けてで家族の本を執筆したい。